丸の内の再開発について、朝日新聞が伝えています。三菱地所による「三菱一号館」の復元についての記事が中心です。「再開発競争」の切り札として使われる「歴史」というキーワード。私はあまり快く思いません。三菱一号館についても当初材を使用するなどオーセンティシティに配慮がなされるようですが、同時にこれも歴史のあるビルだった丸ノ内八重洲ビルの取り壊しを行っています。また、三菱地所は、ここ数年で丸の内を銀座へ対抗するほどのショッピングエリアへ成長させましたが、シンボルがないから捏造された歴史性を付与しよう、という計画に見えるわけです。オーセンティシティについての議論、発想はなく、困難を乗り越えて歴史的建築を守ろうとする側にとって侮辱に等しい計画だと思います。
丸の内「歴史」で勝負 再開発競争の切り札
asahi.com: 2008年01月10日
ビジネスの街、東京・丸の内は様変わりしました。「新丸ビル」「グラントウキョウタワー」といった超高層ビルが続々と登場。新しいブランドショップも増え、流行を追う買い物客でにぎわっています。ただ、再開発を進めてきた三菱地所が今、街づくりのキーワードに挙げるのは「歴史」です。
■赤れんがビル復元へ
丸の内の高層ビル地下6階にある倉庫に入ると、ひんやりとした空気のなか、古びた木製の扉、避雷針、柱の装飾品などが眠っていた。
68年に解体された「三菱一号館」の遺物だ。
一号館は1894年(明治27年)、軍の演習場だった丸の内に最初のオフィスビルとして建てられた。鹿鳴館やニコライ堂をつくった英国人建築家ジョサイア・コンドル氏の設計。地上3階地下1階の赤れんがづくりだった。
三菱地所設計の野田郁子さん(28)は石造りの窓枠に組み込まれた赤れんがを指し、「これをもとに復元用のれんがを作っています」と話した。
98年から丸の内再開発を進めてきた三菱地所がいま力を入れるのが、この一号館の復元だ。残った石材や扉などを組み込んで、元あった場所に建て直し、09年春には美術館として開業する。
丸の内では、日本で初めてオフィス街の建設が進んだ。ロンドンの街並みをまねてれんが造りの建物が次々と建てられ、「一丁倫敦(ロンドン)」と呼ばれた。ただ、一号館をはじめ、これらの建物は、オフィスの需要が高まった60年代の高度成長期に取り壊され、高層ビルに変わっていった。
三菱地所ビル開発企画部参事の中野忠光さん(41)は「丸の内には近代建築の歴史があるが、ビジネスの拠点でもあり、歴史のある建築物が残れなかった」と話す。
三菱地所は三つのビルを取り壊し、復元する一号館の隣に34階建てビルも建てる。取り壊されたビルのうち、特に28年建設の丸ノ内八重洲ビルには、建築家らから解体に反対する声もあった。それでも三菱地所は、一号館の復元にこだわった。
都心の各地で進む「再開発競争」を勝ち抜くキーワードが「歴史」になる、と考えたからだ。
「丸ビル」「新丸ビル」などに商業スペースを多く設け、「仕事が休みの土日は誰もいない」と言われたビジネスの街を変えた。ただ、六本木や汐留でもオフィスと商業施設を兼ね備えた名所が登場。差別化のため、丸の内が持つ「歴史」を活用しようと考えた。
■戦火で焼けた東京駅駅舎も
丸の内で「歴史」を売りにしているのは、一号館の復元だけではない。
1920年(大正9年)に建てられた「日本工業倶楽部会館」。5階建てで戦前から財界活動の拠点だったが、00年からの建て替えでは外壁や食堂など歴史的な部分を残し、30階建ての新ビルと組み合わせ建設した。
JR東日本も東京駅丸の内駅舎の復元に取り組む。太平洋戦争の戦火で焼け落ちた3階部分を、1914年(大正3年)の建設当時の姿に復元する。同社東京駅周辺開発プロジェクトリーダーの金森勇樹さん(40)は「本当に良い建物は時代を超えて残る。再開発が進む東京にも、そんな場所があってもいいのではないでしょうか」と話す。
■「買い物の次は文化を」木村社長に聞く
三菱地所の木村恵司社長に、丸の内再開発について聞いた。
——今の丸の内をどうみますか。
「ビジネスセンター一辺倒だったが、90年代後半にIT対応の遅れで汐留や六本木などに企業が流出した。街づくりの見直しを迫られ、新たに造った高層ビルはIT対応にし、商業施設も盛り込んだ。景気回復もあってにぎわいを見せており、新丸ビルのレストランは私も予約が取れない」
——そんな中で一号館の復元を進める狙いは。
「丸の内は買い物の街にもなった。次に何をすべきか、と考えると『文化』だった。日本初のビジネス街としての歴史も発信しないといけない」
——今後、丸の内はどうなっていくのでしょう。
「東京駅丸の内駅舎の復元や駅周辺整備で相乗効果が出て街の魅力はさらに増す。世界有数のビジネス街になるには、24時間態勢で外国人ビジネスマンを支える医療や暮らしなど、ソフト面での整備も必要になる」