二子玉川の再開発について、世田谷区と東急グループの主導する
再開発計画に対し住民らによる反対運動が起きています。JAN JANが会合の模様を伝えていますが、少々長いので後半は「More」をクリックしてご覧下さい。今回の会合を主催したのは
「にこたまの環境を守る会」。今後も会合を重ね、裁判も含めて再開発反対の声をあげていくそうです。
二子玉川東地区再開発・見直しを求める集い
JAN JAN:2008/01/20
「にこたまの環境を守る会」(野崎宏会長)主催で「わたしたちのまち二子玉川を守る集い」が1月14日、二子玉川地区会館(世田谷区)で開催された。二子玉川東地区第一種市街地再開発事業(以下、二子玉川東地区再開発)による住環境悪化に対する住民らの懸念の高さが浮かび上がった。
守る会は二子玉川東地区再開発の見直しを求めて活動している団体である。二子玉川東地区再開発では東京都世田谷区玉川の土地に超高層ビルの建設や道路の拡幅を計画する。
守る会が再開発に反対する主な理由は、以下の通りである。
・再開発により、環境が破壊される。具体的には超高層ビル群による景観破壊、日照阻害、風害、電波障害、交通量増大による大気汚染などである。
・事業予定地の85%以上を東急電鉄、東急不動産らの東急グループが所有しており、開発目的に公共性が全くない。
・地権者や住民に十分な説明もなく世田谷区と東急グループ中心に進められている。
・東急の利益中心の開発関連事業に約10年間で700億円もの税金が投入される。一方で世田谷区では保育園、幼稚園の保育料値上げ、各種施設使用料値上げなど、区民の負担増加が見込まれている。
「集い」の正式タイトルは「今からでも遅くない、この再開発はやめ、やり直そう、わたしたちのまち二子玉川を守る集い」である。守る会メンバーが事前にチラシ配布や電子メールで参加を呼びかけていた。参加者の中には個人的立場と断りを入れつつ、世田谷区議会議員もいた。
「集い」は大きく3部のパートに分かれた。最初に主催者側からの説明、次に参加者から再開発事業で困ったことについて意見聴取、最後に再開発事業を見直させるためのアクションについて議論した。
主催者側の説明では、冒頭で野崎会長が挨拶した。「長年、東急沿線に住み、東急ファンだった。しかし、住民のことを考えず、利益優先で再開発を進める東急の姿を見て、現在は東急不安になっている」と冗談を交えて語り、会場の笑いを誘った。
再開発事業の問題点説明では「市民政策を実現する会・せたがや」の成田康裕氏が中心となった。成田氏は東急大井町線等々力駅の地下化への反対運動を進めた人物である。本来はパワーポイントで作成した資料をプロジェクタで映す予定であったが、機械の調子が悪いとのことで、急遽、紙で配布した資料で説明することになった。主な説明内容は以下の通りである。
・住宅地で100mを越える超高層ビルが複数棟も建てられる例はない。
・超高層ビルによる不快な圧迫感は形態率という客観的な数値によって実証されている。これは東京都環境影響評価条例に基づく東京都環境影響評価技術指針でも採用されている基準である。圧迫感は主観的な問題にとどまらない。
・超高層ビルが建てられればデジタル放送でも電波障害は発生する。顔が二重に映る。
・再開発予定地周辺は高さ制限が課せられているが、再開発予定地には高さ制限がない。お互い様ではなく、周辺住民が一方的に迷惑を被る再開発である。
・過去に丸子川の洪水で床上浸水になったことが複数回あるが、再開発で盛土を行うため、多摩川へ雨水が流れていかず、周辺地域の浸水被害が拡大する危険がある。
特に最後の浸水被害の問題は深刻である。高層ビル建設による景観破壊や交通量増加による大気汚染は容易に推測がつくが、再開発によって浸水被害が増大するという点は説明されなければ気付かない問題である。
続いて再開発で困っていることについて、参加者の意見を徴収した。様々な意見が出された。主な意見は以下の通りである。
「今の景観が気に入っている。再開発ビルが建つようであったら、引越ししたい」
「バス停の前のケヤキが全て伐採されたのがショックであった。再開発によって自然が失われてしまう」
「再開発地域で盛り土をするため、家の上を道路が通る形になる。排気ガスが心配」
「世田谷区は何故、再開発組合の言いなりになっているのか」
「税金によって地域住民を追い出し、税金によってビルを建て、公害を撒き散らす」
「後世に残す財産がコンクリートの建物だけというのは貧しい」
「超高層マンションでは住民間の確執が生まれるのではないか。地域住民としての一体感は生まれないのではないか」
「再開発組合主催の説明会に出席したが、腹が立って仕方がない。ガス抜きのための説明会であって、住民の意見を聞こうという姿勢は皆無である」
最後に「どうすれば再開発を止められるか」というテーマで議論された。まず成田氏が「必ず止められる。今からでも決して遅くはない」と力説した。既に一部で工事が始まっているが、それらは東急の息のかかった場所である。工事着手の既成事実で住民に諦めさせるのが再開発組合側の狙いである。等々力駅地下化工事を止めさせる運動の中心になった成田氏の発言だけに説得力があった。
会場からは成田氏に同調して、「今からでも止められるという点をもっと強調すべき」との声が出された。チラシには「今からでも遅くない、この再開発はやめ、やり直そう」と書いてあるが、もっと大きく目立つように書いた方が良いとの意見が出された。
別の意見として、「東急ストア・プレッセや東急百貨店での買い物をしない」というものもあった。再開発を実質的に進めているのは東急グループであり、彼らは経済的利益になると判断しているから進めている。従って近隣住民から反発を受ければ経済的損失が生じることを分からせなければならないという意見である。
一方で「電車に乗らない訳にはいかない」ため、不買運動の限界も指摘された。東急電鉄の基幹事業である鉄道事業には地域独占の公益事業という性格を持つ。本来、公共性の高い企業が周辺住民の声を聞かず、反対されている再開発を進めようとしているところに問題があるとの意見が出された。
主催者側からは、二子玉川東地区再開発を巡り、現在2件の訴訟が東京地方裁判所に係属していることが説明された。
・再開発組合に対し、再開発事業の差し止めを求める民事訴訟(平成17年(ワ)第21428号再開発事業差止等請求事件)
・世田谷区に対し、再開発事業への公金支出の差し止めを求める住民訴訟(平成19年(行ウ)第160号公金支出差止請求事件)
野崎会長は「人によっては『裁判までは……』という意見もあるが、裁判から逃げていたら絶対に解決しない」と語る。住民側が裁判まではしてこないと分かれば、事業者側も恐れることなく事業を進め、当然得られるべき譲歩さえ得られなくなるのが実情である。2回目の集いは、2月8日の18時から二子玉川地区会館で開催される予定である。その場で、より具体的な対策を考えていくことが確認された。
今回の「集い」の良かったところは、第1に出席者の意見を広く聞き、議論する姿勢があったことである。この種の運動では中心的に活動している人と、そうでない人とでは知識の差が生じる。そのため、新参の人の発言が古参の人には分かりきっていることも少なくなく、頭ごなし否定したり、一方的な説明が延々と続いたりということになりがちである。今回の集会では主催者側がすぐに回答を全て説明してしまうのではなく、対話の中で答えを出していく姿勢であった。
第2に、時間配分を適切に行っていたことである。この種の集会では発表者が夢中になって予定時間以上の時間を費やし、最後は時間切れになることが多い。再開発で困る点について参加者から活発な意見が出されたが、最後の30分間は「再開発を止めるための手立て」を議論する時間として確保した。これら進め方については同種の集会を主催する人々にとって参考になると考える。
参加者からの発言主体の主体では議論の発散や脱線が起こりがちであるが、「集い」では、それほどでもなかった。これは司会の巧みさに加え、少なからぬ参加者間でも集約できるほど、二子玉川東地区再開発は問題点が明確化しやすいことを意味していると考える。